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執筆者・編集者プロフィール
安田周平
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直交補空間の性質と内積の応用

<今回の内容>ここでは、「正規直交基底の知識」をもとにして、『直交補空間』とは何かを学びます。

さらに、後半では応用として『内積を関数』である「ルジャンドルの多項式」について詳しく扱います。

直交補空間の定義と性質

ここでは、既定の「直交」と関連深い直交補空間について説明していきます。

ひとまず、計量線形空間Vとその部分空間W(参考:「部分空間と基底、次元について」)を考えます。

計量ベクトル空間の部分空間

このとき、Wのあらゆる元に直交する元を持つVの部分空間を「直交補空間」と言い、Wで表します。(⊥の記号は指数のように右上に乗っています。)

この直交補空間にはいくつかの特別な性質があります。

直交補空間の性質3つ

<直交補空間の性質(詳細は以下の項で解説します)>

直交補空間の性質

まずは、ある部分空間とその直交補空間の直和はその部分空間が属する計量線形空間となるということです。

数式で書けばW⊕W⊥=Vとなります。

つまり、直交補空間は「補う」という字の通り『Wでは足りない部分を補っている』ということが出来るのです。

さらに、この直和の性質から、「元の空間の次元=部分空間の次元+その直交補空間の次元」という定理が成り立ち、数式であれば

dim(V)=dim(W)+dim(W)となる性質が認められます。

直交補空間の見つけ方

直交補空間の見つけ方は非常に簡単です。

Wの基底に対して全てに直交する基底を見つけてあげれば、その線形結合によって直交補空間Wのベクトルを全て表すことができるのです。

なぜならば、それぞれの基底同士がすべて直交するので、線形結合同士の標準内積は結局基底同士の係数付きの標準内積の和に分解できます。

基底同士の標準内積は0ですから、最終的にあらゆる要素同士の標準内積も0になります。

ただし、この二つの空間の基底同士は互いに線形独立である必要があります。

そうでないとW⊕W⊥=Vを満たすことができません。
例として<(0,1,1),(1,1,0)>というR^3に属する部分空間Wを定義します。

直交補空間Wの基底の個数は上記の次元の式から3-2=1なので、1つの基底(a,b,c)を考えればOKです。(ここでa,b,cは実数です。)元の部分空間の基底2つとの内積が0になることから、

b+c=0
a+c=0

と書けます。c=-1とするとa=b=1となり、さらにこの時の(a,b,c)は(0,1,1),(1,1,0)とは一次独立であるため直交補空間の基底とすることができます。

直交補空間小まとめ

まとめて式で書くと

W=<(0,1,1),(1,1,0)>
のとき
W=<(1,1,-1)>
であり、さらに
R^3=<(0,1,1),(1,1,0),(1,1,-1)>
が成立する、となるのです。

直交補空間はこのように比較的機械的な計算で求められることがありますので、計算方法と考え方はしっかりと理解しておきましょう。

ルシャンドル多項式(線形代数の内積の応用)

ここまでで、『内積』と『内積を含んだ空間=線型計量空間』、さらに、正規直交基底から、直交補空間まで『線形代数と内積』に関わる基本的な事柄はほぼ紹介してきました。

これから扱うルシャンドル多項式は、解析学において非常に大きな意義を持つ重要な多項式(微分方程式)です。

線形代数の世界でこれまで学習してきた「内積」を考えることで、この多項式の持つ性質を明らかにすることができます。

ルシャンドル多項式と内積の定義

をまとめてみます。

ルジャンドル多項式の紹介

 ルシャンドル多項式はこのように微分形によって表示され、一般的にk次多項式となります。

さて、これまで登場した内積はベクトルの成分同士の掛け算が主なものでした。

しかし、この”ルジャンドル多項式”は内積の対象が実関数であり、計算方法も積分という“高校数学に慣れた人”からしてみれば内積でもなんでもないものに見えるかと思います。

しかし、実はしっかりとはじめに紹介した内積の4つの定義を満たしているのです。(計算してみればすぐにわかります。)

線形代数学での内積の4つの定義

そして、このルシャンドル多項式は内積を使うことによって「直交性」を満たすことの証明、さらには「正規化」を行うことが出来ます。

k=1,…nのルシャンドル多項式はn次多項式からなる空間の基底となるため、この二つの性質をしめすことができれば正規直交基底であることまでわかるのです。

ここからは簡潔な証明について解説します。

直交性の証明

まずは直交性を証明しましょう。

ルジャンドル多項式の内積計算の手順さらに計算を進めます。

ルジャンドル多項式の直交性の証明

 このことから「多項式空間の基底x^mとルシャンドル多項式は直交する」ということが言えました。

すなわち、次数がnの未満の任意の多項式はルシャンドル多項式と直交します。

このことを用いると、n<mとしてP n(x),Pm(x)の内積はP n(x)がn次多項式となることから、先の多項式との直交性を用いることが可能で、(P n(x),Pm(x))=0が言えるのです。これで直交性は示されました。

次に正規化を行います。

今度は同じ次数kのルシャンドル多項式のノルムを計算する必要があるでしょう。

ルジャンドル多項式のノルム計算

 

ルジャンドル多項式の変形

これでノルムが計算されました。

微分の計算の第二項はx^2の3階微分が0であるように、次数より大きい階数での多項式の微分が0になることを用いています。

最後の定積分は、「三角関数に関する定積分の漸化式」や「ベータ関数と部分積分」などを用いて比較的容易に計算できます。(これらの解説記事は作成中(作成済み))

ここで、ノルムが求められたので新しく多項式を定義して正規化を行いましょう。

ルジャンドル多項式と正規化

正規化が完了しました。これらのことからEk(x)(k=1,…n)はn次多項式空間の正規直交基底と言うことができます。

まとめと線形代数の記事・続編へ

「直交性」という性質は、私たちに身近な”垂直”と言う概念だけでなく目に見えない線形代数の世界でも非常に強い意義を持っています。

そしてルシャンドル多項式のような解析学という全く別の分野で使われる関数にも線形代数の性質が隠れていました

”直交”という性質は、線形代数と内積を学習していく中では欠かすことのできない分野でもあるのです。

関連記事一覧と次回「ユニタリ行列」へ

これまでの線形代数の記事はこちら→「線形代数を0から解説!総まとめページ」でご覧いただけます。

前回:「正規直交基底とグラム・シュミットの直交化法

次回:「複素数を成分に持つ行列と随伴行列

 

今回も最後までご覧頂き、有難うございました。

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