計量(内積)線形空間(意味から有名不等式まで)

<この記事の対象>:『計量線形空間』をはじめから学びたい方。(予備知識が必要なところには、参考記事を用意しています。)

<この記事の内容>:「線形 (ベクトル)空間の意味と定義」・「部分空間の定義と基底・次元」に引き続き、『線形(ベクトル)空間』に『計量』が加わった「計量線形空間」について1から解説していきます。また、高校数学での内積やベクトルの大きさ、有名不等式を一般化して考えます。

”計量”線形空間って何?

ここでは”計量”or”内積”が頭についた”線形空間”の定義・意味を紹介します。

内積についての定義を満たす”線形空間”=計量線形空間

言葉自体は難しそうですが、これまでの線形空間の定義を満たした空間に以下の”内積”の概念を導入しただけです。

ベクトルの内積の復習は→「ベクトルの内積とは?(高校数学B)

内積空間の定義4つ

線形空間V中のどの(=任意の)2つの元(ここではu,vとします)が以下の4つの関係を全て満たす時、その空間のことを計量(内積)線形空間と呼びます。

(高校のベクトルのイメージがあれば、難しくないはずです)

$$その一:(\vec{u}+\vec{v})\vec{v'}=\vec{u}\cdot \vec{v'}+\vec{v}\cdot \vec{v'}$$

単純に分配法則が成り立つことを意味しています。

$$その二:\vec{u}\cdot \vec{v}=\vec{v}\cdot \vec{u}$$

順序を入れ替えても内積の値に変化がない。

$$その三:t(\vec{u}\cdot \vec{v})=\vec{u}\cdot t\vec{v},t\in \mathbb{R} $$

これは少しだけややこしいでしょうか。『内積を実数倍した値』は、『実数倍した元』ともう一方の元の内積の値が等しいということを言っています。

$$その四:\vec{u}\cdot \vec{u}≧0$$

同一の元(ベクトル)の内積は0以上の値を取ること。

これら4つを全て満たせばOKです。

ノルムとベクトルの大きさ

さて、ここからは『ノルム』という高校数学では教えられていなかった事柄についての解説です。

高校までの数学では、上の項の(その四)の場合のように同一ベクトルの内積は次のように書き、そのベクトルの大きさの2乗を意味していました。

$$\overrightarrow {u}\cdot \overrightarrow {u}=\left| \overrightarrow {u}\right| ^{2}$$

一方で、ノルムは

$$\left\| \overrightarrow {u}\right\|$$

この様に、ノルムは絶対値記号を2つ重ねたような記号で表されます。

コーシー=シュワルツの不等式とノルム

ここまで計量線形空間の定義と、ノルムについて解説してきました。ノルムの性質の1つとして『コーシー=シュワルツの不等式』が成り立つというものがあります。

この不等式から『内積』を定義していくとても大切な式なので、しっかり証明まで理解して再現できるようにしておきましょう。

コーシー=シュワルツの不等式とは

非常に有名で大学入試にもよく登場するコーシー=シュワルツの不等式は、以下のように表せます。

$$\left( \sum ^{n}_{k=1}u_{k}v_{k}\right) ^{2}\leq \left( \sum ^{n}_{k=1}u^{2}_{k}\right) \left( \sum ^{n}_{k=1}v^{2}_{k}\right)・・・(※)$$

これをノルムを使って書くと、$$\left| \overrightarrow {u}\cdot \overrightarrow {u}\right| \leq \left\| \overrightarrow {u}\right\| \cdot \left\| \overrightarrow {v}\right\| ・・・(※)'$$

一見複雑そうですが、n=2の場合から確認・証明していきます。

実例と証明:n=2の時

n=2の時(※)の式は次のように表されます。

$$(u_{1}v_{1}+u_{2}v_{2})^{2}≦(u^{2}_{1}u^{2}_{2})(v^{2}_{1}v^{2}_{2})・・・(※※)$$

uやvの代わりにa,b,x,yなどの文字で紹介されることが多いですが、(※※)これが最も単純なコーシー=シュワルツの不等式です。

証明は、(※※)の(右辺)ー(左辺)の式を作り、それが0以上であれば良いので、

$$(u^{2}_{1}u^{2}_{2})(v^{2}_{1}v^{2}_{2})-(u_{1}v_{1}+u_{2}v_{2})^{2}$$

展開して整理すると

$$=u^{2}_{1}v^{2}_{2}u^{2}_{2}v^{2}_{1}-2u_{1}u_{2}v_{1}v_{2}$$

これは

$$=(u_{1}v_{2}-u_{2}v_{1})^{2}$$

(実数)の2乗となるので、0以上。よって(※※)は成立。

これらは全て"実数u.v"についての証明でした。では、元(ベクトル)やノルムはどこへ行ったのでしょう?

(※※)の不等式を(※)'で出てくるベクトルu,vの関係を考えると、

$$\overrightarrow {u}=\begin{pmatrix}
u_{1} \\
u_{2}
\end{pmatrix},\overrightarrow {v}=\begin{pmatrix}
v_{1} \\
v_{2}
\end{pmatrix}$$

以上のようになります。すなわち、成分表示での不等式が(※)(※※)で、成分表示を使わずベクトルで不等式を表すと(※)'のようになる(つまり別の表現をしていただけ)です。

証明:nの時

ここでは、このシュワルツの不等式がn=2や3の時だけでなくいつでも成立することを示すために、(※)のの証明を(今度は元とノルムを利用して)行います。

証明の仕方は何通りもあるのですが、最もポピュラーで、かつ高度な知識がいらない(D:判別式)を利用する方法を紹介しておきます。

$$|\vec{u}\cdot \vec{v}|≦||\vec{u}||\cdot||\vec{v}||$$

point1;ベクトルuに実数kをかけて次の式を作ります。

$$||k\vec{u}+ \vec{v}||・・・(一)$$

(一)は0以上、より(一)の二乗もまた0以上だから、

$$||k\vec{u}+ \vec{v}||^{2}=(k\vec{u}+\vec{v})^{2}・・・(二)$$

(二)の右辺は0以上なので、展開した上でkの二次方程式とみます。(ココがpoint2)

すなわち、$$k^{2}||\vec{u}||^{2}+2k(\vec{u}+\vec{v})+||\vec{v}||^{2}・・・(三)$$

(三)が0以上なので、判別式D≦0が成り立ち(point3)

$$D=4(\vec{u}+\vec{v})^{2}-4||\vec{u}||^{2}||\vec{v}||^{2}≦0 ・・・(四)$$

更に(四)を因数分解すると、(x-a)(x+a)≦0:「x=ベクトルuとvの内積、a=(ベクトルuのノルム・ベクトルvのノルム)」の形にできるので、

$$-||\vec{u}||\cdot|| \vec{v}||≦\vec{u} \cdot \vec{v}≦||\vec{u}||\cdot||\vec{v}||・・・(五)$$

これを絶対値とノルムを使って整理することで

→$$|\vec{u}\cdot \vec{v}|≦||\vec{u}||\cdot||\vec{v}||$$

よって示せました。

 

特に後半のコーシーシュワルツの不等式については、現役の高校生でも理解しておきたい(特に難関大を目指す人は差がつきます)ところです。

計量線形空間〜ノルム・有名不等式までのまとめと続編へ

・計量線型(ベクトル)空間の定義4つを確認しておきましょう

・内積とノルムの性質 +(特に、”コーシー=シュワルツの不等式の証明”は自分では思い付くのは難しいので、ぜひ覚えておきましょう。)

・次回は、コーシー=シュワルツの不等式をさらに深く掘り下げ、その他の有名不等式や『内積』の定義などを詳しく見ていきます。

線形代数の関連記事と次回:「コーシー=シュワルツから内積・直交へ」

これまでの“線形代数”の記事一覧は以下のページでご覧いただけます。

→「線形代数をわかりやすく0から解説!記事まとめ」←

前回:「基底・標準基底の意味と基底の変換の仕方

次回「(作成中)計量線型空間2〜シュワルツの不等式から『内積』」

最新記事:「正規直交座標とグラム・シュミットの直交化法

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