直交行列とユニタリ行列 (複素行列シリーズ2)
<今回の内容>:前回の複素行列シリーズ1「”複素数を要素とする行列”の性質と公式」に引き続き、複素行列から《ユニタリ行列》と、その実数版と言える「直交行列」について詳しく紹介していきます。
<これまでの線形代数の記事>:は「線形代数をはじめから学ぶ!解説記事総まとめ」でご覧いただけます。
(※:随時内容追記中)
目次(タップした所へ飛びます)
直交行列とユニタリ行列とは
さて、「直交行列」と「ユニタリ行列」という新しい言葉が登場しました。
しかしながら、これらの行列は「複素行列と随伴行列の性質・公式(1)」で紹介した「転置行列」および、「随伴行列」を元に定義されている行列なので、一度意味を把握してしまえばすぐに理解ができるものです。
さっそく、直交行列から先に定義を紹介していきます。
直交行列の定義
”直交”の意味については、この「線形代数を0から始めるシリーズ」を読んでくださっている方ならば、
・『内積』や
・『正規直交基底』
・『グラム・シュミットの直交化法』
などとの関連を思い出して頂けるのではないでしょうか。
直交行列は、Eを単位行列としたとき\(A^{T}A=E\)を満たす”実正方行列A”のことを言います。
さらに、上の定義式の両辺の左側から『直交行列の逆行列』\(A^{-1}\)をかけてあげると、
\(A^{T}AA^{-1}=EA^{-1},計算するとA^{T}E=EA^{-1}\)
ここで、Eは単位行列なので、結局\(A^{T}=A^{-1}\)。すなわち、【直交行列を転置した行列はその直交行列の逆行列と等しい】ということが言えます。
また、先ほども少し書きましたが、直交行列はその成分が全て正規直交基底であるもののことを言います。
「正規直交基底と内積・計量ベクトル空間」(復習)
したがって、直交行列の各基底の内積は基底が同じ時を除き全て0、基底が同じ場合1となります。
(これは『内積』と、『同じベクトルの内積』について思い出すとすぐ理解できるかと思います。)
ちなみに、このような『別の基底=0、同じ基底=1』のような場合はδ(クロネッカーのデルタ)という記号を用いることが多いです。
ユニタリ行列の定義
次に、ユニタリ行列の定義に移ります。
ユニタリ行列は直交行列を複素数に拡大したバージョン(というか、ユニタリー行列の中で実数に限定したもの(実ユニタリ行列)が直交行列)といえ、その定義もそっくりです。
Aを複素数を成分に持つ正方行列(随伴行列)としたとき、
\(AA^{\ast}=E \)を満たし
先ほどと同様の手順で、\(A^{\ast}=A^{-1}\)となるもののことを『ユニタリ行列』と言います。
どちらか一方の定義を覚えてしまえば、もう片方の定義を把握するのも簡単でしょう。
直交行列とユニタリー行列の性質
さて、それぞれの定義は理解できましたでしょうか?
ここからは、直交・ユニタリー行列両方の性質を紹介していきます。
この2つの行列には定義がそっくりなだけでなく、似た性質がいくつか存在します。
直交行列の性質
1.「2つの直交行列A,Bの積『AB』もまた”直交行列”である」
2.「直交行列の行列式は1または-1である」(参考:「行列式の意味と求め方を解説」)
3.「直交行列の固有値は1または-1のみである」(「固有値と固有ベクトルの意味・求め方」)
4.「直交行列をAとすると、およびベクトルx,yを考えたとき{(Ax,Ay)=(x,y)}が成立する。」
5.「Aおよびベクトルxに対して、||Ax||=||x||が成立する。」
6.「直交行列の列ベクトルは実空間の正規直交基底を成す」
ユニタリ行列の性質
上述した通り、ユニタリ行列は上の性質を(複素数に)書き換えたものが多いですが、ところどころ違う言葉がまぎれていることに注意です。
1.「2つのユニタリ行列A,および,Bの積『AB』もまた”ユニタリ行列”である」
2.「ユニタリ行列の行列式は絶対値が1の複素数となる。すなわち、複素平面上において単位円状に存在する複素数となる」
(参照:「複素数平面に関する記事まとめ」)
3.「ユニタリ行列の固有値は絶対値が1の複素数である」
4.「ユニタリ行列をAとすると、およびベクトルx,yを考えたとき{(Ax,Ay)=(x,y)}が成立する。」
5.「Aおよびベクトルxに対して、||Ax||=||x||が成立する。」
6.「ユニタリ行列の列ベクトルは複素空間の”正規直交基底”を成す」
7.「正方行列Xについて、A*X^nA=(A*XA)^n」
等の性質が存在します。
性質の”違う部分”だけを効率よくチェックする
直交行列のものと見比べると、
・定理2、3の「1および-1」が「絶対値が1の複素数」に変わり、
・定理6では「実対称行列」が「正規行列」に入れ替わっています。
・7はユニタリ変換における対角化で頻繁に使われる定理です。
直交行列は実ユニタリ行列と言うことが出来るため、以下の項ではユニタリ行列をメインに解説していきます。
ユニタリー行列の性質1~7について証明の流れを説明します。
ユニタリ行列(と直交行列の性質)の証明
ここまでで解説してきたユニタリー行列・(直交行列の)性質の証明をこの項では行なっていきます。
性質1から3
1:\((AB)(AB)^{\ast}=ABB^{\ast}A^{\ast}=AEA^{\ast}=EAA^{\ast}=E\)
2:(行列式)\(\det AA^{\ast}=\det A \det A^{\ast}\)
$$\det AA^{\ast}=\det A \det A^{\ast}=\det A \overline {\det A^{\ast}}$$
(ここで、『随伴行列の行列式は元の行列の行列式の共役な複素数』であることを用いて)
\(=|\det A|^{2}\)さらに、\(\det AA^{\ast}=\det E=1\)だから、\(|\det A|=1\)
3:ユニタリ行列Aに対して固有値λと固有ベクトルxを考えると、\(A\vec{x}=λ\vec{x}\)
,両辺の随伴行列をとると,\(\vec{x^{\ast}}A^{\ast}=λ\vec{x^{\ast}}\)
性質4〜7
(追記中)
6:内積をエルミート積として定義し、ユニタリ行列の列ベクトルの随伴行列について内積を計算する。
全ての列に対して行うと\(列ベクトルa_{k}\)と置いた時、\(\overrightarrow {a_{i}}\cdot \overrightarrow {a_{j}}\)
\(はi=jの時1,i≠jの時0\)
7:ユニタリ行列の定義より、\(A^{\ast}=A^{-1}\)であり、
このように、7つの性質は比較的楽に証明することが出来ます。
(もちろん、厳密に議論しようとすると長めの証明になってしまうこともありますが、基本的な考え方は同じです)
直交/ユニタリ行列まとめと二次形式へ
今回紹介した直交・ユニタリー行列は、あらゆる所で重要な役割を果たします。また、(例:特異値分解→主成分分析)などを通して、機械学習・統計学などにつながっていきます。
>>「二次形式を直交行列で標準形にする手順と意味」<<2020/02/04【NEW!】
複素行列の関連記事と次回エルミート行列へ
"複素行列"シリーズ
次回は、ユニタリ行列の続編として、「正規行列の対角化」+『エルミート行列』について紹介します。
第一回:「複素行列の性質と公式を解説!」
第二回:「(今ここです)『直交行列』と『ユニタリ行列』」
第三回:「(作成中)正規行列・”エルミート行列”とその対角化」
今までの線形代数に関する記事は、「0から学ぶ線形代数:解説記事の総まとめページ」よりご覧いただけます。
最後までご覧頂きまして、有難うございました!
当サイト「スマナビング!」では、読者の皆様からのご意見の募集を【コメント欄】にて行なっています。
また、B!やシェア、Twitterのフォローをしていただけると、大変励みになります。
・その他の【お問い合わせ/ご依頼】に関しましては、【運営元ページ】よりご連絡下さい。