熱力学第二回:ポアソンの式と断熱変化
<この記事の内容>:シリーズ第2回目として、『断熱変化』の問題を解くときに欠かせない「ポアソンの法則(式)」の導き方と、問題での使い方を解説しました。
前回:「シリーズその一:”熱力学の第一法則”と”W”・”ΔU”・”Q”」
目次(タップした所へ飛びます)
ポアソンの式(法則)とは
ポアソンの式とは、『断熱変化』が起こるとき、下の項で紹介しているような関係が成り立つことを言います。
関係式(ポアソンの法則)
ポアソンの法則で知っておく必要がある式は次の3つです。以下で出てくるγは「比熱比」と呼ばれ(3)で解説しています。
(1):\(PV ^{\gamma}=Const.\)
『まずは、圧力×体積のガンマ乗が一定である』
(2):\(TV^{\gamma -1}=Const.\)
『もう一つは、絶対温度×体積の(ガンマ−1)乗が一定である』
(3):そして、上二つの式で登場したガンマ\((\gamma\))は定積モル比熱\(C_{V}\)と定圧モル比熱\(C_{P}\)を使って
\(\gamma=\frac{C_{P}}{C_{V}}\)の関係式で表すことができます。
ポアソンの式の導出:\(TV^{\gamma -1}\)
ここでは導き方を解説していきます。数学3の微積分の知識があれば(”変数分離型”の「微分方程式」を扱います)理解できるように、なるべく式変形を省略せずに詳しく導いていきます。
出来ればこの項を理解しておきたいですが、まだ??な人は次の項へ進んでください。
※:簡単のため、気体は”単原子”分子、かつ、”理想気体”であるとします。
断熱(変化)ということは、外から熱が入ってくることはありません。したがって\(Q_{in}=0\)
$$\Delta U=\frac{3}{2}nR\Delta T $$と\(W_{OUT}=P\Delta V\)
はまだわかりません。
これらの関係を、「熱力学第一法則」に代入すると、
\(0=P\Delta V +\frac{3}{2}\cdot nR\Delta T\)
ここで、”状態方程式:PV=nRT”を用いて、デルタの入っていないP(圧力)を、$$P=\frac{nRT}{V}$$として変形し、PΔVのPに代入します。(参考:「理想気体の状態方程式(化学)」)
どちらでも構いませんが、W=ΔUの式にするために移項して、
《VとΔV》《TとΔT》が同じ側になる様にします。
$$\frac{\Delta T}{T}=-\frac{2\Delta V}{3V}$$
ここで、両辺を積分します。
$$\int \frac{1}{T}dT=-\frac{2}{3}\int \frac{1}{V}dV$$
この形は、\(\int \frac{1}{x}dx=\log_{e}x\)と同じなので、
$$\log{T}=\frac{3}{2}\log{V}+C$$
自然対数なので、eを使って書き換えると
$$e^{\log{T}}= e^{\frac{3}{2}\log{V}+C}$$
(※:この部分の変形が正しいのか分かりづらいときは、両辺それぞれに自然対数を取ることでチェック出来ます)
指数部分を比べて、$$T=V^{\frac{-2}{3}}\cdot e^{C}$$
ゆえに、$$TV^{\frac{2}{3}}=e^{C}=Const.$$
よって、TとVの3分の2乗が一定であることが導けました。
\(PV^{\gamma}\)の導出について
なお、\(PV^{\gamma}\)については、\(TV^{\gamma -1}\)から『状態方程式を変型して代入』することで導くことができるので、各自挑戦して見てください。
使いみち
次の項でポアソンの式の具体的な使い道を紹介します。
断熱変化での利用
では、早速”断熱”変化の問題を使ってその解き方を見ていきます。(定積・定圧の場合の問題は現在作成中です。)
定着問題(具体例で確認)
外部と熱のやりとりができないよう、断熱材で出来たピストン付きのシリンダーがある。
今シリンダーの中には、\(n(mol)、P_{1}(Pa)、V_{1}(L)、T_{1}(K)\)の気体が入っている。
この気体は単原子分子の理想気体(気体定数R)であり、\(\gamma=\frac{5}{3}\)、かつ\(C_{V}=\frac{3}{2}nR\)であるものとして以下の問題に答えよ。
小問1:はじめの状態から体積を\(4V_{1}\)まで断熱膨張させた。この時の圧力を\(P_{2}(Pa)、温度をT_{2}(K)\)とする。\(P_{2}(Pa)とT_{2}(K)\)をそれぞれ求めよ。
小問2:この間に気体がした仕事を求めよ。
解答解説
さっそく問題の流れを見ていきましょう!
解答1:状態方程式とポアソンの式
まず、状態方程式を変化前と後の2つ立てます。
\(P_{1}V_{1}=nRT_{1}\cdots (式一)\)
\(P_{2}V_{2}=nRT_{2}\cdots (式二)\)
さらに、\(V_{2}=4V_{1}\)より、
\(4P_{2}V_{1}=nRT_{2}\cdots (式二-二)\)
ここで、未知数二個に対して使える式は(二−二)だけなので、ポアソンの法則より、
\(P_{1}V_{1}^{\gamma}=P_{2}V_{2}^{\gamma}=Const.\cdots (式三)\)
を立てます。
式三のV2に4V1を代入して、
$$P_{1}V_{1}^{\frac{5}{3}}=P_{2}(4V_{1})^{\frac{5}{3}}$$
ここで指数法則より(参考:「指数・対数の基礎と問題を解説」)
4の『3分の5乗』は8√2。
従って、$$P_{2}=\frac{\sqrt{2}}{16}P_{1}$$
次に、温度を求めるために (式一)と(式二)を見比べて割ってあげると、
$$\frac{P_{1}\cdot V_{1}}{P_{2}\cdot 4V_{2}}=\frac{nRT_{1}}{nRT_{2}}$$
上の式にいま求めたP2を代入した上で、圧力・体積を整理すると、
$$\frac{4}{\sqrt{2}}=\frac{T_{1}}{T_{2}}$$
よって、
$$T_{2}=\frac{\sqrt{2}}{4}T_{1}$$・・・(答え)
解答2:熱力学第一法則の復習
小問1で、熱力学第一法則を用いるために必要な情報はそろいました。
まず断熱変化より、Q=0,そして内部エネルギーの変化は\(=C_{V}\cdot n\cdot \Delta T\)
$$ここで\Delta T=T_{2}-T_{1}=\frac{\sqrt{2}-4}{4}T_{1}$$
よって、気体がした仕事Wは
$$0=W+\frac{3}{2}nR\left(\frac{\sqrt{2}-4}{4}\right)T_{1}$$
ゆえに、
$$W=\left(\frac{12-3\sqrt{2}}{8}\right)nRT_{1}$$
・・・(答2)
熱力学(二)まとめ
・ポアソンの式の導出については、できれば再現できることが望ましいです
・が、(難関大・学部以外を受験する場合)は最低でもポアソンの式を覚えて、断熱変化の問題で使えるように類題をこなしておきましょう。
>>「高校化学の気体分野を合わせて見る」
関連記事と次回へ
熱力学シリーズ”第一回”:「熱力学第一法則とΔU、Q、W」
(〃)シリーズ”第二回”:「(作成中)定積・定圧変化と力学の問題」
(〃)シリーズ”第三回”:「(今ここです)ポアソンの式と断熱変化」
(〃)シリーズ”第四回”:「(作成中)熱力学”第二法則”と熱効率e・永久機関」
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