酸化還元反応式から酸化剤/還元剤を見分ける方法
酸化還元の問題で、「この反応式の内どの物質が酸化剤で、どの物質が還元剤かを答えよ。」という問題や、
・「線を引いてある化合物が酸化剤、還元剤、どちらでも無い、に分けよ」、さらには
・「これが酸化還元反応かどうか見分ける必要がある」といった問題がありますが、どうやって良いのかわからなくなりませんか?
この記事では、「酸化数のルール」を身につけることで、そのような問題に悩むことなく半自動的に満点を取れるようになります。
まず酸化数を身につけて、酸化剤・還元剤の意味を確認し、
→次に用意している練習問題で酸化剤、還元剤を見分ける訓練をします
酸化数の考え方は、酸化還元滴定などの応用問題でも必ず必要になるものなので、ぜひ身につけましょう!
目次(タップした所へ飛びます)
「酸化数」を使いこなす
この“「酸化数」を使いこなす”に書いてあることを身に付ければ、あとは問題を解いて慣れるだけです。
酸化数とは?
酸化数とは、その名の通り原子の単体がどのくらい酸化されているかをあらわす数値です。
ところで、酸化の定義は「単体の原子がどれだけ電子を失ったか」でした。
(参考)「酸化還元と酸塩基の定義を1行で解説!」
そこで、電子を一個失えば酸化数は+1、電子を二個失えば酸化数は+2という風にして決められたのが酸化数なのです。
逆に還元されるという事は電子を得る事だったので、電子を一個得れば酸化数は ー1、電子を二個得れば酸化数は ー2、、、となります。
酸化数のルール
大原則:イオンになっていない原子/分子の酸化数は0とする。
これは、イオン化していない=電子を失ったり、得たりしていない=酸化も還元もしていない=酸化数はゼロ、と考えれば自然に理解できると思います。
$$例)2H_{2}+O_{2}→2H_{2}O のH_{2} 、O_{2}、H_{2}O、$$
はそれぞれイオンになっていないので、酸化数は0です。
基本ルール:水素と酸素
次に、酸化数の計算をするときに注目するのが、「水素」と「酸素」です。
$$上記の水の反応式中の右辺にあるH_{2}Oは、$$
【大原則】の通り全体としての酸化数はゼロですが、
$$H_{2}O中の水素Hの酸化数 は+1、H_{2}O中の$$
酸素Oの酸化数はー2として計算します。
化合物中のアルカリ金属とアルカリ土類金属のイオン
KI(ヨウ化カリウム)のような化合物中の
アルカリ金属イオン\(K^{+}:カリウムイオン\)
の酸化数は普通+1です。
また、同様に化合物中のアルカリ土類金属イオンの酸化数は"+2"となります。
化合物中のハロゲン(17族)化物イオンのルール
化合物中のハロゲン化物イオン
\((Cl^{-},F^{-},Br^{-},I^{-}の酸化数は-1です。\)
単原子イオンの酸化数のルール
\(単原子イオン(例:Na^{+} ,Cr^{3+} ,Cl^{-},S^{2-.} など)の\)
酸化数は、その『イオンの価数と等しい』ものとして計算します。
これも、電子を失った陽イオンは酸化されて失った電子の数=酸化数となる「酸化数とは」の基本通りです。
上の例で言うと、ナトリウムイオンは酸化数 +1、クロムイオンは酸化数が +3、塩化物イオンの酸化数は-1、硫化物イオンの酸化数は-2となります。
多原子イオンの酸化数
複数の原子で構成されている多原子イオンも、その価数=酸化数となります。
$$例)硫酸イオン{SO_{4}}^{2-}の酸化数は-2$$
\(リン酸イオン{PO_{4}}^{3-}の酸化数は-3\)
\(硝酸イオン{NO_{3}}^{-}の酸化数は-1、など。\)
また、多原子イオンを構成する原子の酸化数の和=多原子イオンの価数になります
$$(例えば、{Cr_{2}O_{7}}^{2-} で考えると、全体の価数=-2、$$
Oの酸化数は-2だから、この多原子イオン中のCrの酸化数は次のように計算出来ます。)
$$-2=(-2)\times 7+(Crの酸化数)\times 2$$
$$これを解いて、12=(Crの酸化数)\times 2$$
従ってCrの酸化数は +6となります。
ルールの例外:過酸化水素『重要な酸素の酸化数』
ここでは酸化数のルールの例外を紹介します。
過酸化水素\(H_{2}O_{2} \)でのHの酸化数は 『+1』で変わりませんが、Oの酸化数が『-1』になる例外があります。
例外:過酸化水素のOの酸化数はー1
「酸化剤」・「還元剤」の意味と例題
簡単に、酸化剤と還元剤の復習をしておきます。
酸化剤の意味
酸化剤は、「相手」を「酸化する」もので、「酸化剤自体」は、「還元され」ます。
言い換えると、酸化剤は「相手の電子を奪い」、「その電子を受け取る=還元される」といえます。
還元剤の意味
還元剤の意味は、酸化剤の逆で「相手」を「還元する」、「還元剤自体」は「酸化され」ます。
これも言い換えると、還元剤は「相手に電子を与え」、「電子を失う=酸化される」ということが出来ます。
例題と「酸化剤」「還元剤」を見分ける手順
では、練習問題に入る前に具体的な酸化数の使い方を例題を通して解説していきます。
(例題)以下の化学反応式の内、酸化剤となるものと還元剤となるものを答えよ。
$$2KI+Cl_{2} \rightarrow I_{2}+2KCl$$
いきなり酸化数が活躍します。まず、ヨウ化カリウムKIに注目すると、アルカリ金属(1族の金属元素)であるカリウムKは酸化数+1、ハロゲンであるヨウ化物イオンの酸化数は-1を取ります。
次に、\(塩素Cl_{2}\)は単体なので、酸化数は0です。
今度は、生成物の方に注目して、
\(ヨウ素I_{2}\)は単体なので酸化数は0、
塩化カリウムはClの酸化数が-1、Kの酸化数が+1ここは変わりません。
反応物と生成物の酸化数を見比べると、
\(2I^{-1}ヨウ化物イオン(-1)\rightarrow ヨウ素I_{2}\):(0)になって
いるので、KIが酸化されていることからヨウ化物イオンが「還元剤」です。
一方、塩素の酸化数(0)→塩化物イオン(-1)になっているので、
\(Cl_{2}\)は還元されています。よって「酸化剤」と判断できます。
答)
酸化剤:塩素
還元剤:ヨウ化物イオン
この問題では、酸化剤、還元剤ともにハロゲン(17族)元素が登場しますが、後に無機化学の分野で重要になってきます。
酸化還元反応を見分けるシンプルな方法
酸化還元反応かどうかを見極めるには、【酸化数の変化】に注目します。
・酸化数が変化している化合物・単体・イオンが1つでもあれば、それは酸化還元反応です。
・逆に反応式のどの化合物・単体・イオンの酸化数の変化がなかった場合、それは酸化還元反応ではありません。
実践問題:酸化還元反応
色々な種類の酸化還元反応式で、酸化剤・還元剤を見分ける練習をしてみましょう
問題編
(一)の化学反応式で、酸化剤と還元剤を選んでそれぞれに分けよ。
$$(一) H_{2}O_{2}+SO_{2} \rightarrow H_{2}SO_{4}$$
\((二)次の化学反応式中の「2H_{2}SO_{4}」は\)
酸化剤、還元剤のどちらの役目をしているか答えよ。
\(Cu+2H_{2}SO_{4} \rightarrow CuSO_{4} +2H_{2}O+SO_{2}\)
解答編
\((一)酸化剤:H_{2}O_{2}、還元剤:SO_{2}\)
解説:\(H_{2}O_{2}\)の酸素原子の酸化数は、-1でした。(酸化数のルールの例外より)
そして生成物の\(H_{2}SO_{4}\)の酸化数は、
水素が+1、酸素が-2、硫酸全体としての酸化数は単体なのでゼロ。より硫黄の酸化数は
$$0=(+1)\times 2 + (Sの酸化数)\times 1 + (-2)\times 4$$
よって、S=(+6)
$$一方でSO_{2}の硫黄の酸化数は$$
$$0=(Sの酸化数)+(-2\times 2) より、S=(+4)$$
硫黄の酸化数が +6 → +4 となっているので、還元されている=相手を酸化する=酸化剤(酸化剤とは?より)。
$$(二) 2H_{2}SO_{4}は酸化剤です。$$
解説:まず、Cuは単体なので酸化数0、
$$H_{2}SO_{4}も全体としての酸化数は0です。$$
硫酸中の水素の酸化数が+1、酸素の酸化数が-2、より、硫黄の酸化数は
$$0=1\times 2 + (Sの酸化数) +(-2\times 4) より+6$$
次に生成物のうち二酸化硫黄単体の酸化数は0、二酸化硫黄中の酸素の酸化数は-2より、硫黄の酸化数は+4。
従って、硫黄の酸化数の変化に注目すると、 +6 → +4 と酸化数が減少していることから、硫酸は還元されています。
よって、硫酸は酸化剤の役目をします
まとめと関連記事(酸化還元反応シリーズ)
・酸化剤は相手を酸化し、自身の酸化数は減少。
・還元剤は相手を還元し、自身の酸化数は増加。
酸化還元反応シリーズ
まとめ記事を更新しました。
「酸化還元反応の解説記事のまとめページ」←を作成しました!
第1回:「酸塩基反応と酸化還元反応の違いを答えられますか?」
第2回:「イオン化傾向と酸化還元反応(電池)」
第3回:「ダニエル電池の計算問題とファラデー定数」
第4回:「電気分解とは?電池との違いと陽極/陰極でのルール」
第5回:「イオン化傾向とイオン化エネルギーの違いとは?」
第6回:今ここです
第7回:「アルミニウムの融解塩電解とその性質」
第8回:「酸化還元滴定を初めから解説!半反応式の作り方から演習問題まで」
今回もご覧いただき、有難うございました。
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