
恒等式の意味・解き方とその応用
<この記事の内容>:「恒等式」と「方程式」の違いが上手く説明できない。という初学者の人から、意味や基本問題は解けるが応用になると解けない、、という方までを対象として、
・『恒等式』の意味と基本的な解法
・典型的な問題、さらにその
・応用問題
まで解説した記事です。
目次(タップした所へ飛びます)
恒等式とは
まず恒等式についての基本的な意味と問題を見ていきます。
方程式との違いと具体例
この2つの式の違いがあいまいな人はかなり多いです。
方程式:「特定の数の時だけ」成り立つ(等)式
一方で、
恒等式:「どんな数の時でも」成り立つ等式
です。
この説明をもう少し具体的にして、わかりやすくして見ましょう。
具体例で考えてみる
方程式
\(x^{2}+7x+9=x+1\)
この式は、式変形すると\(x^{2}+6x+8=0\) となって、(x+2)(x+4)=0
つまり、xが『-2』と『-4』の時“のみ”成立する等式です。
一方で恒等式
\((x+2)^{2}=x^{2}+4x+4\)
をみてみると、
\((左辺)=(x+2)^{2}=x^{2}+4x+4\)
\((右辺)=x^{2}+4x+4\)
より、(左辺)=(右辺)なので、xにどのような数を入れても成り立つことがわかります。
小まとめ
まとめると、等式の左右が『ある特定の数』でのみ成立するものを【方程式】、一方で『全ての数』で成立する等式を【恒等式】と呼びます。
さらに詳しく、いろいろな方程式をまとめた記事→「方程式(高校数学全範囲)の解き方まとめ」も参考にしてください。
基本問題と2つの解き方:(係数比較と代入法)
さて、恒等式についての1番基本的な問題は、(xの整式)が与えられて、『それが恒等式となるような適切な係数』を求めさせる、と言うものです。
例題1:\(\alpha x^{2}+\beta (x-1)+2\gamma=2x^{2}+5x+3 \)が恒等式となるような\(\alpha,\beta,\gamma\)の組みを求めよ。
例題2:\(k(x+3)^2+l(x+1)+2m=3x^{2}+2x+5 \)が恒等式となるような(k,l,m)の組を求めよ。
それぞれの問題について、2種類の解法を使って解いていきます。
係数比較法で解く
文字通り、等式の(右辺)と(左辺)の変数(ここでは”x”)の頭についている”係数”を比べて、同じ値になるようにすることによって問われている文字を求めます。
解答1:比較法version
解答1:\(\alpha x^{2}+\beta (x-1)+2\gamma=2x^{2}+5x+3 \)の
(左辺)を展開すると、\(\alpha x^{2}+\beta x+2\gamma -\beta\)となり、
(右辺)と比べてみると、\(2x^{2}+5x+3 \)
xの二乗の係数:α=2
xの一乗の係数:β=5
xの零乗(つまり定数項)の係数:2γーβ=3、βが5なので、γ=4
以上より、$$(\alpha,\beta,\gamma)=(2,5,4)・・・(答)$$
(※)この程度の簡単な式であれば、比較法の方が素早く解ける場合も多いです。
では、もう少し複雑な例題2ではどうでしょうか。
解答2:比較法version
解答2:\(k(x+3)^2+l(x+1)+2m=3x^{2}+2x+5 \)を例題1の時と同じく展開し、係数を比較していきます。
\((左辺)=k(x^{2}+6x+9)+l(x+1)+2m\)
整理して、
\(→kx^{2}+(6k+l)x+(2m+9k+l)\)
\(3x^{2}+2x+5 \)と比べると、
・k=3・・・(一)
・6k+l=2・・・(二)
・2m+9k+l=5・・・(三)
(二)と(三)を連立して、
$$(k,l,m)=(3,-16,-3)・・・(答)$$
代入法で解く【十分性の確認が最大のpoint】
数値代入法(以下『代入法』とします)は、xに適当な数字を代入して係数を求める方法です。
特に『複雑な展開などが必要になる式』などで非常に役に立つのですが、一点だけ注意しなければいけない事があるので、解答しながら紹介します。
解答1*:代入法version
解答2*:\(\alpha x^{2}+\beta (x-1)+2\gamma=2x^{2}+5x+3 \)
(1):\(x=0を代入すると、-\beta+2\gamma=3\)
(2):\(x=1を代入すると、\alpha+2\gamma=10\)
(3):\(x=-1を代入すると、\alpha-2\beta+2\gamma=0\)
(2)-(3)より、2β=10 よって、β=5
(1)-(3)より、β-α=3 よって、α=2
(2)より、2+2γ=10 よって、γ=4
(α,β,γ)=(2,5,4)
〜ここから注意!〜
上で求まった(2,5,4)は、今の段階ではあくまでx=1,0,-1の時に成立しているに過ぎません。
そこで、「十分性の確認(どんなxに対しても成り立つのか)」を行います。
(『必要条件・十分条件とは?』については、左のリンク先の記事で解説しています。)
具体的には、(2,5,4)を代入した式が(右辺)と等しくなるかのチェックをします。
$$2x^{2}+5(x-1)+2\cdot 4=2x^{2}+5x+3$$
となって確かに成立します。
解答2*:代入法version
解答2*:\(k(x+3)^{2}+l(x+1)+2m=3x^{2}+2x+5 \)
(1):x=-3を代入すると、-2l+2m=26
(2):x=-1を代入すると、4k+2m=6
(3):x=0を代入すると、9k+l+2m=5
(3)-(1):9k+3l=-21・・・(4)
(3)-(2):5k+l=-1・・・(5)
(4),(5)より、k=3,l=-16
これを(2)に代入して、m=-3
$$したがって、(k,l,m)=(3,-16,-3)$$
ここで、十分性の確認を行うと
\(3(x+3)^{2}-16(x+1)-6\)
\(=3x^{2}+18x+27-16x-16-6=3x^{2}+2x+5\)
となって、確かに成り立つ事が確認できました。
そのほかの活用法
恒等式の考え方を他分野で利用する例を少し挙げておきます。
部分分数分解での利用法
部分分数分解にも応用できます。
『分解前の分数』と『分解後の分数』の前後は恒等式となることから、文字を置いて係数比較/代入を行うことで、素早く部分分数に分解することができます。
(詳しくは→『部分分数分解の仕方とコツ』)
化学反応式の作成時への応用
こちらは数学とは関係のない『化学』なのですが、【化学反応式の係数】を自分で求めないといけない場合に『恒等式』の知識が少し役に立ちます。
詳しくは→「化学反応式の係数を確実に求める方法」をごらんください。
恒等式を応用した問題
ここでは、恒等式の考え方を使った若干難易度の高い問題を紹介します。
問題:未知の関数f(x)を求める
今、次数が不明の多項式:f(x)があり、以下の式をみたす。
\(f(0)=5\)かつ、
\(f(x+3)-f(x)=x\)とする。
このときのf(x)を求めよ。
解答・解説
この問題ではf(x)を求めないといけませんが、xの何次式なのかすらわかっていません。
そこで、一旦\(f(x)=(xのn次式)である\)として、次のように『仮に』f(x)を表してみます。
次数をnと仮定して式を作る
\(f(x)=a_{n}x^{n}+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots \)
\(+a_{n-2}x^{n-2}+a_{1}x+a_{0}\cdots (※)\)
【係数について】:例えば、xの◯乗の係数をα、β、γ・・・などの文字でおいていっても良いのですが、文字が足りなくなる可能性があるので、添字nを使って\(a_{n},a_{n-1},\cdots \)でおいています。
f(0)=5・・・であることから、\(a_{0},すなわち定数項が5である\)ことはすぐに分かります。
代入してみる
次に、\(f(x+3)-f(x)=x・・・(※※)\)この恒等式をどのように扱うかが重要です。
(※※)の右辺に(※)を代入してみると、
(右辺)は、\(f(x+3)=a_{n}(x+3)^{n}+a_{n-1}(x+3)^{n-1}+\cdots\) \(+a_{2}(x+3)^{2}+a_{1}(x+3)+a_{0}\)
から、(左辺):\(f(x)=a_{n}x^{n}+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots \)\(+a_{2}x^{2}+a_{1}x+a_{0}\)を引いたものであるので、最高次の次数に注目します。
(point):\(x^{n}\)は打ち消されているため、\(x^{n-1}\)がf(x+3)-f(x)=xの”x”にあたる(n次−1次)ことが分かります。
二項定理を使って係数を表す
そして、n-1次の係数とn-2次以下の式は以下のように書くことができます。
何故いきなり”コンビネーション”が出てきたか??な方は、「二項定理とは?式の展開や二項係数をわかりやすく解説」をご覧ください。
\(f(x+3)-f(x)=a_{n}\cdot {}_n C_{1}\cdot 3x^{n-1}+\cdots\)
比較をしてnと係数を求める
したがって$$a_{n}\cdot {}_n C_{1}\cdot 3x^{n-1}=x^{1}$$であるので、◯乗の部分を比較すると、\(n-1=1 、よって、n=2\)
さらに、\(a_{2}\times {}_2 C_{1}\times 3x=6a_{2}x^{1}\)
これが『1x』にあたるので、\(a_{2}=\frac{1}{6}\)
さらにf(0)=5だから、\(a_{0}=5\)
ここまでで分かったことは、
・f(x)がxの二次式であること
・\(x^{2}\)の係数が\(\frac{1}{6}\)であること
・そして定数項=5であることです。
したがって、$$f(x)=\frac{1}{6}x^{2}+a_{1}x+5\cdots (***)$$
再度恒等式を利用
最後に求まっていないa_{1}を求めるために、(***)をf(x+3)-f(x)=xに再び代入します。
\(f(x+3)=\frac{1}{6}(x+3)^{2}+a_{1}(x+3)+5\)
上の式を簡単にすると、
$$f(x+3)=\frac{1}{6}x^{2}+(a_{1}+1)x+(3a_{1}+\frac{13}{2})$$
$$f(x)=\frac{1}{6}x^{2}+a_{1}x+5$$
$$よって、f(x+3)-f(x)=x+3a_{1}+\frac{3}{2}$$
$$3a_{1}+\frac{3}{2}=0 より、a_{1}=\frac{-1}{2}$$
以上より、
$$f(x)=\frac{x^{2}}{6}-\frac{x}{2}+5$$
恒等式まとめと関連記事
このように恒等式は幅広い分野で応用できることから、融合問題を解く際に使うことが多いです。関連問題は随時追加・リンクしていきます。
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