不飽和度の意味と計算法
<この記事の内容>:有機構造決定に欠かせない、【不飽和度】について、計算式とその値から有機化合物を推測するコツを紹介しています。
<有機構造決定>(前回):「構造決定(1):元素分析の装置と計算」
目次(タップした所へ飛びます)
不飽和度とは
前回は、未知の有機化合物の分子式まで決定する方法を解説しました。ここからは、異性体の描き出しに必要な不飽和度を見ていきます。
不飽和度の意味
不飽和度は\(I\)やIHD(Index of hydrogen deficiency )と表し、ある化合物の水素原子がどの程度不足しているか(=二重・三重結合や環状構造があるか?)を求めるものです。
もう少し具体的に、不飽和度をみていきましょう。
不飽和度の値を構造決定に活かすコツ
不飽和度を計算するだけでは問題は解けません。しかし、不飽和度である程度(構造を)予想することは可能です。
・不飽和度0:全て単結合
・不飽和度1:二重結合すなわちアルケン、あるいは環状の炭水化物
・不飽和度2:三重結合すなわちアルキン、あるいは二重結合が二つ、環状+二重結合が一つetc,,,
・不飽和度4(最重要シグナル):【二重結合3つ+環状→ベンゼン環】が含まれている(芳香族)の可能性が高いです。
etc,,,
(参考;「アルカン・アルケン・アルキンなど脂肪族有機化合物」の性質と構造)
(+α):不飽和度から推測出来る事
例えば『不飽和度が4で、中性』ならば『ベンゼン環』を疑い、『酸素原子が無ければ』(ーCH3)がくっ付いているのではないか?
といった風に”当たり”を付けながら解いていきます。
実際の入試ではここまで簡単な問題は当然出題されないですが、もう少し大きな有機化合物を開裂させたり、脱水させたりした後にこのような小物がいくつか出来ることがあります。
そして、こういった小物がいくつか集まって問題として与えられ、『さかのぼってもともとの比較的大きな分子の構造を決定する』という流れが構造決定問題では頻出です。
それでは、具体的に不飽和度を計算するための公式に移ります。
不飽和度の計算方法(窒素/ハロゲンを含む場合)
ある化合物の、Cを炭素の数、Nを窒素数、Hを水素の数、Xをハロゲンの数として
$$\mathrm{I}=\frac{\mathrm{2C+N+2-X-H}}{2}$$
(2C+N+2-X-H)/2 =この値が『不飽和度』です。
練習問題:公式を使って計算
(例題1-3):ある有機化合物A:\(\mathrm{C_{8}H_{18}O_{2}}\)の不飽和度を求めよ。
分子式の決定との融合
(例題2-1)各元素が質量パーセントで表された、分子式の決定問題との融合。
今、分子量128の有機化合物Bは質量が炭素65.6%、水素9.4%、酸素25.0%であった。このBの分子式を求めよ。
(例題2-2):上で求めた化合物Bの不飽和度を計算せよ。
解答・解説
(解答:1-3):
計算式と分子式から、$$\frac{8\times 2+2-18}{2}=0$$
∴不飽和度は0・・・(答)
(解答:2-1):前回扱わなかった”比(パーセント)”で表されているパターンです。
このような場合はたいてい綺麗な比になることはないので、次の手順で“ほぼ”整数の比になる様に計算を行います。
質量%からの分子式決定・不飽和度の算出
%表示→
全体を100(g)と考えて各々の質量計算(step1)→
質量を原子量で割る(step2)→
出て来た比の内、最も小さい値でそれぞれを割る(step3)
(実際にやってみます)
【step1】
炭素の割合が65.6%なので、C=65.6(g)
水素が9.4%より、H=9.4(g)
酸素25.0%より、O=25.0(g)
【step2】
\(\frac{65.6}{12}≒5.47・・・(1)\)
\(\frac{9.4}{1}=9.4・・・(2)\)
\(\frac{25.0}{16}≒1.56・・・(3)\)
【step3】
(1)〜(3)のうち、最小の1.56でそれぞれを割ります。
すると、\(5.47÷1.56≒3.50・・・(1-2)\)
\(9.4÷1.56≒6.03・・・(2-2)\)
\(1.56÷1.56=1・・・(3-2)\)
このようにほぼ整数比に近づいてきたので、
およそ\(\mathrm{C:H:O}=3.5:6.0:1.0\)
これを2倍した\(\mathrm{C_{7}H_{12}O_{2}}\)と問題文で与えられている”分子量128“から、
有機化合物Bは\(\mathrm{C_{7}H_{12}O_{2}}\)・・・(答)
(解答:2-2):不飽和度の計算公式から、
\(\mathrm{I}=\frac{7\times 2+2-12}{2}=2\)
したがって、化合物Bの不飽和度は2 ・・・(答)
不飽和度まとめ
この様に有機化合物の構造や性質を調べていくにあたって、不飽和度は極めて重要なヒントを与えてくれます。
・不飽和度の値で推測出来る事
・計算方法
をしっかりと復習して、次回の「(作成中)異性体の意味と書き出しのコツ」へつなげましょう。
有機化学構造決定シリーズ一覧
第一回;「元素分析の装置と組成式の計算」
第二回:「(今ここです)不飽和度の計算と元素分析との応用問題」
第三回:「異性体の種類・意味と書き出しのコツ」(NEW!)
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