高校有機化学:石けん/鹸化/エステルなど
身近に存在するせっけんについて、この記事では高校レベルの有機化学の知識を固めながら、
・その製法
・汚れが落ちる仕組み、
・コロイドやミセルなどとの関係
について詳しく図解入りで紹介していきます。
目次(タップした所へ飛びます)
石けんの製法・原材料
石けんは以下でまとめる「油脂」を「強塩基」で「鹸化(けんか)」することによって作られます。
それぞれを詳しくみていきましょう。
油脂とは
油脂とは、”高級脂肪酸”と”グリセリン”を”エステル化”したものです。↓↓
高級脂肪酸とグリセリン/エステル化
この『高級脂肪酸』+と+『グリセリン』+『エステル化』というだけで、有機が苦手な人は嫌になりがちなのですが、一つ一つ分解していけばそんなに難しいことではありません。
高級脂肪酸とは
脂肪酸と言う名前だけ見ると油の酸?酸性の油?と初めは感じるかもしれません。
このことは、詳しく別記事で紹介しますが、不飽和脂肪酸やDHA(よくCMなどで見かけます)などを聞いたことはあるのでは無いでしょうか?
その「脂肪酸」がここで紹介するものです。
(ちなみに、飽和〜・不飽和〜というのは「アルカン/アルケン/アルキン」でも解説している様に、炭素間が単結合のみなのか、それとも二重結合が存在するのか?によって分けられています)
さて、『高級』脂肪酸に話をもどすと、これはカルボン酸の中でも炭化水素基の部分の『Cの数が大きい』もののことを言います。
つまり、
高級→(炭素の)数が多い
脂肪→(油)→炭化水素
酸→カルボキシル基を持つ”カルボン酸”
とそれぞれ分解してみると意味がよく分かり、覚えやすいはずです。
グリセリンの構造
次にグリセリンですが、3価のアルコール(-OH基×3)で化学式は\(\mathrm{C_{3}H_{8}O_{3}}\)で表されるもの(構造は上の<図1>参照)です。
エステル化→油脂へ
これらの高級脂肪酸中にある、-COOHの部分と、グリセリンの-OHの部分で【脱水縮合】を起こし、エステル化した有機化合物が出来上がります。
これを『油脂』と呼びます。
鹸化(けん化):油脂を強塩基で加水分解
次に、上で紹介した油脂をNaOH水溶液などの強塩基を使用して加水分解します。
すると、油脂のエステル化(アルコール+カルボン酸→エステルと水)の逆の反応が起こり、
・【油脂+NaOH→カルボン酸と強塩基で出来た塩+グリセリン】が生じます。
これを加水分解、特にけん化と呼び、出来上がったRーCOONa の事を石けんと呼びます。
石鹸の作成順序(小まとめ)
炭素数の多いカルボン酸と、グリセリンを脱水縮合させる。
↓
エステル化(高級脂肪酸とグリセリンのエステル=油脂ができる。)
↓
油脂を強塩基によって加水分解する
↓(けん化)
塩基性塩(石けん)とグリセリンが生じる
石けんが汚れを落とす仕組み【図解】
さて、石けんの構造や製法などがざっくりと分かったところで、この有機化合物がなぜ汚れを落としたりすることが可能なのか、詳しく見ていきましょう。
親油基(疎水基)と親水基
まず、親油基と親水基とは何か?というところから説明していきましょう。
RーCOONa(Rは炭化水素基)を簡単な図にすると以下のようになり、
・\(\mathrm{ーCOO ^{-}}\)の部分は電気陰性度の差により極性が大きく生じ、同じく極性を持つ周囲の水と親しむ(=水和しようとする)性質を持っています。
一方で、Rーの部分は(\(\mathrm{CH_{4}}\)が極性を持たないように)基本的に極性が生じず、同じく極性を持っていない油汚れなどにくっ付こうとします(=親油基)
また、親油基=親水基でないことから「疏水基」とも呼ばれます。
<汚れに疏水基がくっついていく様子と石けん分子の構造>
ミセルとコロイド
図のように、汚れ(ここでは油汚れ)が布などについた時、上で解説したよう親油基の部分がアブラと親しみ=くっついて取り囲み、表面が親水基(ヒドロキシ基)で覆われた【ミセル】と呼ばれるコロイドを形成します。
こうして水中に(親水基に囲まれた)汚れが浮き出し、これを洗い流すことで汚れや服のシミなどがきれいになるのです。
<親水基を外向きに取り囲み、汚れを浮かせる>
これが石けんによって油汚れを落とすメカニズムです。
ただし、強塩基を用いた石鹸は水中で塩基性をしめすので、動物性の繊維などには不向き(=絹や羊毛等を痛める)です。
そこで、その欠点をおぎなったり殺菌作用をもつ中性洗剤をはじめとする新たな界面活性剤が登場します。
(詳しくは次回解説します)
石けんのまとめ
ここまでで、基本的な『せっけん』の知識は解説しました。
(もう少し詳しくみていくと界面活性剤やその種類などが有るのですが、それは「(作成中):界面活性剤の種類と作用」で解説予定です。)
有機化学は本当に身近なところに存在し、仕組みや名前の由来などを考えもせずに日々使用しているのですが、このようなことを理解すれば徐々に有機化学の苦手意識が消え、もともと興味のあった人はさらに得意になります。
今後もぜひ勉強を続けていきましょう!