一般教養としての原子物理
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今日は原子核の構造と放射線の種類、そして放射性崩壊を扱います。
記事のタイトルは、いつもこのサイトを読んでださっている理系の学生だけでは無く、一般の方にも読んでいただきたいと思ったからです。
今回の内容の厳密な理系受験生/学生用の記事は次回の高校原子物理第6回でしっかりと扱うので
当該学生はサラッと流し読みして貰ってオーケーです。
何故一般の方に読んで頂きたいか。
残念な事に、大手のメディアなどでも放射線と放射能を同じ物の様に取扱っていたり、科学的根拠のない商品が紹介されているなど、
お世辞にも日本人全体としてのサイエンスリテラシー(正確な科学的知識を持って、物事を判断するチカラ)が高いとは言えない状況にあります。
広がり続けるサイエンスリテラシーの差
勿論、日本の科学技術や研究レベルは最高クラスです。
しかし、昨今の理系離れや早急に結果を出す事が求められて基礎研究が疎かにされるなどの原因で、
しっかりと高校、大学と理数系の勉強をした人と、そうで無い人との上述したリテラシーの差は広がるばかりなのです。
そこで、原子/核/放射線についてこれらの正体を少しでも知ってもらう/サイエンスリテラシーを高めてもらう為に,
この記事を書くこととしました。
原子とは何か。
世の中の物は全て原子と呼ばれる極めて小さな物資で出来ています。その大きさは、10のマイナス10乗メートル程度。0.0000000001(メートル)
位です。
原子は電子と原子核から成り、土星のように原子核の周りを電子(マイナスの電気を帯びています)が回っているようなものだと考えてください。
(理系向けの、正確な原子モデルは今後記事にします)
原子核とは何か
土星のイメージで言うと中心にある土星そのものです。サイズは原子全体の10万分の1程度と更に極微な世界のお話になります。
原子核は +の電気を帯びた陽子と、電気を帯びていない中性子から成ります。
陽子、中性子、電子の質量
陽子と中性子の質量はほぼ同じですが、電子はその(1/1840)と言うとても軽い物です。
その為、原子全体の質量を表す時は、陽子と中性子の合計で計算されます。(上記の通り電子は相対的に軽すぎるのでムシされます。)
放射性崩壊
一旦、先ほどの原子に話を戻すと原子核には陽子と中性子がくっ付いて存在しています。
陽子はプラスの電気(電荷と言います)を持っていました。
それらが原子核にみっちり詰め込まれているのです。
磁石でも同じN極同士をくっ付けると反発する様に、陽子同士も反発します。(その力を斥力と言います)
そして陽子の数が多ければ多いほど、斥力は大きく成り、耐えられなくなった原子核は崩壊してしまいます。
これを放射性崩壊と言います。
崩壊した原子は、陽子や中性子の数が異なる別の原子へと変化して行きます。
放射線、放射能、放射性物質の違い
今回のテーマの一つです。TVなどでも時折混同しているのを見かけるほどなので、違いが説明出来なくても不思議では有りません。
一般に有名な放射性崩壊として、α崩壊、β崩壊、γ崩壊があります。
この崩壊した時に「放射線」と呼ばれるものが放出され、「放射線を放出する性質」の事を「放射能」と言います。
更に「放射能を持った物質」の事を「放射性物質」と呼びます。
また、
α崩壊の時に出る放射線をα線
β崩壊の時に出る放射線をβ線
γ崩壊の時に出る放射線をγ線
と呼びます。
では各々の放射線はなにが違うのでしょうか?
α線/β線/γ線の違い
例としてウランUを用いると、
ウランの原子核から高速でヘリウムHeの原子核が飛び出した物をα線と言い、原子核には陽子が含まれているのでプラス電荷を持ちます。
これは人体へのダメージは大きいですが、紙一枚ほどの厚さも通り抜けられないので、透過力が小さいと言います。
次に、原子核の中性子が陽子と電子に変化して、高速の電子が飛び出した物をβ線と言います。
電子なのでマイナスの電荷を持ち、中くらいの人へのダメージと中くらいの透過性を持ちます。
image by Burkhard Heuel-Fabianek
最後に、原子核中での変化によってエネルギーが発生し、光子と呼ばれる電磁波の一種が放出されることがあります。
これをγ線と言います。γ線の透過力は非常に大きいです。
image by Burkhard Heuel-Fabianek
image by Stannered
自然崩壊と核分裂反応
これまで紹介した放射性崩壊は自然に起こるものでした。これを人為的に引き起こし、放射線と膨大なエネルギーを引き出すのが核分裂反応です。
実際にはウランに中性子をぶつけて行います。なんの管理もせずに核分裂反応を起こすと、
連鎖反応と言う連続な反応が一気に進み、いわゆる核兵器になってしまいます。(現実にはもっと複雑ですが)
一方で原子炉では制御棒と呼ばれるものが反応を常に一定状態を保たせています。(この状態を臨界状態と言います)
その為、一般的に原発では核爆発はほぼ起きないとされています。
実際、福島第1原発では、核爆発では無く、事故の影響で溜まった水素ガス爆発が発生しています。
この様に放射線といっても様々な種類があり、発生メカニズムも色々です。
重要な事は、正確に問題を理解した上で自らの意見を持つ事です。
この記事がその一助となれれば筆者としてこの上ない喜びです。
追記:半減期について
半減期について、話題になっているようなのでごく基本的な説明を追記しておきます。
半減期とは、上で紹介した「放射性物質」の数が半分になるまでの期間を表します。
例えば半減期が10年の放射性物質があれば、10年でその半分が放射性崩壊し、さらに次の10年で半分の半分の量になります。
(半減期が10年だからといって、20年で消滅することは当然ありません。20年で元の1/4になるのが正しいです)
さらに詳しくは、「半減期の式を微分方程式から導く」で解説しています。
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高校範囲の原子物理で、古典物理学と現代物理学、人間の目で見ることができるマクロな世界から、ミクロの世界への橋渡しとなる分野です。
(高校レベルの力学、波動の知識は必要です)
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