ネイピア数e(自然対数の底)って何の為にあるの?
(ネイピア数誕生の歴史と現在どの様な役に立っているかを加筆しました!)
さて、このサイトを見にきて下さる方は現在理工系・医歯薬系等の大学を目指している方と、学生時代の事を思い出しながら見て下さっている大人の方が多いです。
今回は学生・受験生の方には息抜きとして、大人の方には、久々に少し昔のことを思い出しつつ「教養としての数学」の読み物としてご覧下さい。
(と言いつつ割と現実世界との繋がりについても書きましたのでビジネスに繋がるかも?)
目次(タップした所へ飛びます)
ネイピア数eとは?
eの定義
ネイピア数はある日突然数学3の極限の時間に現れます!
そして特に何の説明も無く
$$\begin{aligned}\lim _{n\rightarrow \infty }\left( 1+\frac {1}{n}\right) ^{n}=e\\
\lim _{n\rightarrow 0}\left( 1+n\right) ^{\frac {1}{n}}=e\end{aligned}$$
上の定義を与えられて、授業の本題は微積分へ移り、可哀想なネイピア数はただの「変な数」として入試に臨むこととなります。
しかしながら、この変な数はいくつものユニークな特徴を持っており、ありとあらゆる学問や技術の下支えをしています。
例えば、
ネイピア数を底にした関数を微分すると元に戻る!
$$\frac {de^{x}}{dx}=e^{x}$$
上のように、ネイピア数を底とした関数を微分しても同じ関数に戻るという非常に珍しい性質があります。
これもただ珍しいだけでなく、微分方程式において大変役に立つのです。
微分方程式とは
詳しくは、「微分方程式の解説と物理・化学への応用まとめ」で紹介していますが、微分の形(例dx/dyやdv/dtなど)が方程式の中にあるものの事です。
森羅万象を司る物理をはじめ化学、生物学などありとあらゆる科学は微分方程式で記述されます。
この微分しても同じという性質により微分方程式を解く際にeは無くてはならない存在なのです。
高校範囲で扱うものだけでも、そもそも運動方程式は微分方程式で表されますし、
空気抵抗を受ける物体の落下運動や半減期の公式の導出、化学の反応速度など知らないうちに微分方程式に触れているのです。
興味があれば、ぜひ上のまとめ記事も読んで見てください。
話をネイピア数に戻します。今度は確率とのお話です。
ネイピア数と確率の問題
時折、ネイピア数は全く関係のないように思われる所に姿をあらわします。
「とあるサッカー選手は、1/n の確率でペナルティーキックを失敗する。この選手がn回連続してPKを成功させる確率を求めよ」
n=1,2,3,,,と実際に試して見ましょう。
n=1 これは残念ながら100%失敗します したがって0%
n=2 (1-1/2)2 =1/4 したがって25%成功
n=3 (1-1/3)3 =8/27≈30%成功
n=4 81/256≈31.6%成功
n=5 (1-1/5)5 =32.7%成功
n=6,,,疲れてきました。
n=5の時を考えると一回あたりのPK成功率は80%です。これはかなり高い数字ですね。
ではこのままn=100・1000・10000・・・の選手、
即ちほぼ100%成功させる天才キッカーならば連続成功確率は100%に近付くのでしょうか?
確率は1/eに収束する!
文字でおいて計算して見ましょう。
成功確率Pは、 lim(n→∞) (1-1/n)n で計算できます。あれ?この式はどこかで見ましたね?
$$P=\lim _{n\rightarrow \infty }\left( 1-\frac {1}{n}\right) ^{n}$$
そうです最初のネイピア数の定義式 lim(n→∞) (1+1/n)n =eとソックリです。
では変形させて見ましょう↓
$$-\frac {1}{n}=h とおくと n\rightarrow \infty の時,h\rightarrow 0より$$
$$\begin{aligned}\lim _{h\rightarrow 0}\left( 1+h\right) ^{-\dfrac {1}{h}}=\lim _{h\rightarrow 0}\left( 1+h\right) ^{\dfrac {1}{h}\cdot \left( -1\right) }\\
\simeq e^{-1}\simeq \dfrac {1}{e}\end{aligned}$$
以上の様に無限回行うと成功確率がほぼ100%の試行でも1/e≒37%に収束するんです!
この様に成功or失敗の2つの結果しかない試行をベルヌーイ試行と言います。
ベルヌーイ試行を使った、入試問題の解説記事を作成しました!→確率と対数の融合問題(難関大数学第2回)
ここで「確かにeは不思議だけれども、所詮現実的に収束するまで何かをする事もないし、そもそも100%近く成功するサッカー選手もいない。単なる頭の体操に過ぎないんじゃない?」
と思う方もいるかもしれません。しかしながら、この性質は統計学へと発展し、色々な事がらの確率を求めるのに使用されています。
(NEW!):「ベルヌーイ分布と二項分布を分かりやすく解説!」
今後もっとも重要になる職業と予想されるデータサイエンティストやAI関連にも不可欠なものです。
(「データサイエンス・機械学習のための数学/統計学」の記事を作成しました。)
興味のある人は、二項分布やポアソンの極限定理、ポアソン分布などを調べてみて下さい。ネイピア数があちこちに姿をあらわします。(上の記事などで統計・確率分布を解説しています。)
※:「ポアソン分布の解説記事」を作成しました。
撹乱順列とe
もう一つだけ、順列にネイピア数が現れる有名な問題を紹介します。
1,2,...,n と各々に書かれたn 枚のカードをランダムに並べた時、どのカードも元の位置にならない順列や、
n 人でプレゼントを交換した時全員が自分以外の他の人が持ってきたプレゼントが貰える場合の数、その様なものを撹乱順列や完全順列、乱列などと言います。
その確率を求めると、またしてもネイピア数が現れます。n→∞の時、その確率は1/eに収束します。つまりおよそ3回に一回は成立する事になります。
この証明は次回の投稿でマクローリン展開と共に紹介します。(同時にオイラーの等式まで書ければ紹介します)
そもそも何故eが生まれたのか?ネイピア数の誕生の物語
ネイピア数の誕生:対数の発見者ネイピアからベルヌーイ、そしてオイラー
ネイピア数はそもそも対数の発見者であるジョン・ネイピアに由来します。
ネイピア数の事を自然対数の底と言いますが、ジョンによる対数の研究の一環として残されたのは自然対数の数値のみであり、
直接的に現在のeを発見したのはヤコブ・ベルヌーイだと言われています。
因みにベルヌーイ家はヨーロッパ随一の科学者一族であり、何人もの偉大な学者を輩出している名門です。
ベルヌーイ家とカルヴァン主義
ベルヌーイ家はユグノー教徒でした。即ちカルヴァン派であり、後にマックス・ヴェーバーが『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』で言及したように利潤の肯定という概念を持つ一派でした。
その背景からなのかは確実なことは言えませんが、ヤコブは金利の研究”も”していました。
ヤコブ・ベルヌーイの複利計算式とオイラー
その中で複利計算において、次のような式の解を求めようとしました。
*複利の概念とネイピア数の定義の繋がりを分かりやすくする為、簡単にしてあります。
複利計算;1年で100%の利息が付くとき、これを分割するとどうなるか?
$$\frac{1}{2}年で \frac{1}{2}(50%)の利息を2回・・・(1+\frac{1}{2})^{2}$$
$$\frac{1}{3}年で \frac{1}{3}(33.3%)の利息を3回・・・(1+\frac{1}{3})^{3}$$
$$\frac{1}{4}年で \frac{1}{4}(25%)の利息を4回・・・(1+\frac{1}{4})^{4}$$
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$$\frac{1}{n}年で \frac{1}{n} の利息をn回・・・(1+\frac{1}{n})^{n}$$
↓ヤコブ・ベルヌーイはn→∞の時の値を求めようとした。
$$これこそが、\lim _{n\rightarrow \infty }\left( 1+\frac {1}{n}\right) ^{n}$$
<図1>
最後の式が、我々がいきなり授業で与えられる式であり、このような過程で生まれたのです。
そして、この式=eという文字で置き、これが自身を微分しても等しい数であるという定義と結びつけたのが、
かの大数学者オイラーなのです。
今、我々はe=2.718,,,と知っていますから、仮に無限に短い期間で銀行に預け、引き出し、預け・・・を繰り返しても凡そ2.7倍に収束するわけです。
複利の実用〜数理ファイナンスへ〜
上では、年100%のリターンの場合を扱いましたが、実際にはまずあり得ない数字です。
そこで、少し定義の式を変化させてやると任意の元本・利率・期間での収束値をを求めることが出来ます。
下の様に一般化させたものを連続複利式と言い、数学と金融工学を結ぶ橋渡しとなります。
連続複利式
$$\lim _{n\rightarrow \infty }\left( 1+\frac {1}{n}\right) ^{n}=e・・・(1)$$
$$(1)の\frac{1}{n}が100%にあたるから、$$
$$年利をr、元本をa、運用年数をn$$
$$預け入れ↔引き出し の期間を\frac{1}{l}とおくと、$$
$$a(1+\frac{r}{l})^{ln} $$ でn年後の元利の合計額がわかる!・・・(2)
ここで、我々は$$\frac{1}{l}$$を極限まで小さくした時の値を求めたい。
そこで、$$\frac{l}{r}=Kとおく・・・(3)$$
理由は、ネイピア数の定義の式(1)に近付ける為。
$$(3)より、l=rKかつ、(2)はa(1+\frac{1}{K})^{rnK}$$
・・・(4)と置ける。
$$\lim _{n\rightarrow \infty }a\left( 1+\frac {1}{K}\right) ^{rnK}=a\left( \lim _{n\rightarrow \infty }\left( 1+\frac {1}{K}\right) ^{K}\right) ^{rn}$$
$$上の式のうち、\lim _{n\rightarrow \infty }\left( 1+\frac {1}{K}\right) ^{K} の部分が(1)と$$
同じなので、eに収束する。
$$従って、\lim _{n\rightarrow \infty }a\left( 1+\frac {1}{K}\right) ^{rnK}=ae^{rn}$$
<図2>
これにより、複利計算が一気に楽になりました!そして、ネイピア数を底として対数を取ると、
任意の金額にする為にどれくらいの期間と利回りが必要かがわかる様になりました。
小まとめ:
『任意の年利=r、元本をa、運用年数をn』と置くと、
連続複利式は、$$ae^{rn} $$と表せます。
この記事のまとめ
この様に、ネイピア数は現代の金融だけでなく、自身を微分しても元と同じ数になるという性質と、(logex)'=1/x となる事などからなくてはならない数なのですが、円周率πや少し高度ですが虚数i、など他の定数と比べて「こういうものだ!」と簡単に説明しづらい数であるのです。
寧ろ自然現象を微分方程式で表したり、先ほどの金利であったり、その様なときに顔を出す不思議な数と言うしかない悔しいですが尻尾を捕まえられない、そんな存在なのだと感じていただければと思います。
詳しく:「微分方程式で物理現象を表す」を読む。
、、、記事が長くなって来たので、一旦ここで「教養としての数学」第1回は締めます。
次回も面白く、為になる記事をアップします。お楽しみに。
今回も最後までご覧いただき有難うございました。
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