鉄と鋼の製法(理論・無機化学)
<この記事の内容>:酸化還元反応・および無機化学分野でよく問われる『鉄』の製法や反応式、ステンレスなど鉄の合金について詳細に解説しています。
<合わせて読みたい記事>:理論分野は「酸化・還元反応の解説記事まとめ」で復習ができます。
また、同じ金属の製法として「銅の電解精錬の仕組み」・「アルミニウムの性質・製法とホール・エルー法」を合わせてご覧ください!(この記事の最後にもまとめを作っています)
目次(タップした所へ飛びます)
鉄の工業的製法:酸化数に注目
我々の生活にもっとも身近な金属である”鉄”ですが、鉄鉱石から鉄、鋼、そしてその合金にいたる過程はやや複雑です。
まずは鉄鉱石・コークス・石灰石から数パーセントの不純物(主にC:炭素)が含まれる“銑鉄”を製造する『高炉』の仕組みと、重要なポイントを見ていきましょう。
酸化還元反応と『高炉』鉄鉱石→銑鉄
基本的に鉄の製法の問題で問われるのは、以下の<図1>にあるような『高炉』を利用した方法です。
高炉で起きている化学反応
上の図中の点線で囲った部分では、温度が変わるにつれてCOによってFeが還元されていきます。
それぞれの場所(一番下のFeO→Fe:が最も高温で、一番上のFe2O3→Fe3O4が最も低温)では、以下のように酸化数が小さくなっている=鉄が還元されていく様子がわかります。
<高炉での鉄の還元と酸化数>
最終的に高炉の下には「銑鉄」と以下で紹介する「スラグ」が溜まっていきます。
スラグとは
「スラグ」とは鉄鉱石などに含まれている不純物と、はじめに投入した石灰石から生成されたケイ酸カルシウムなどの塩のことで、銑鉄よりも密度が小さい(軽い)ため浮き上がってくるものです。
このスラグは
・銑鉄を再び酸化させない(重要!)
・セメントなどの原料
といった役割を担います。
銑鉄を還元する転炉の意味と式(銑鉄→鋼)
さて、やっと鉄鉱石を銑鉄の状態にすることができました。
しかしながら、銑鉄(せんてつ)は先ほども述べたように不純物(主に炭素)が含まれているために脆(もろ)くなっています。
これらの不純物を取り除いて、鋼材にするためにあるのが『転炉』です。
<転炉のイメージ図>
上のように、高炉から流れてくる銑鉄に酸素を加えることによって、銑鉄中の炭素がCO2となり炭素が少ない「鋼」へと変化します。
電炉(電気炉)とは何か
ここまでは、高炉から転炉の流れを見て来ました。次は電気炉と呼ばれるものを(少しだけ)紹介します。
この電炉は、電気によって発生させた高熱で回収された鉄くずなどを溶かし、いわばリサイクルして鉄を取り出す役割をします。
特に具体的な出題は無いと思いますが、無機化学の知識の一つとして名前くらいは知っておくと良いでしょう。
鉄の合金と利用(無機)
さて、理論化学の範囲で問われる鉄の知識はほぼ網羅しました。
ここからは、少し細かな合金や要注意の【ブリキとトタン】の違いなどについて解説していきます。
身近な鉄の合金
もっとも身近な鉄の合金(実際には鋼の合金)はステンレスではないでしょうか。
クロムやニッケルを混ぜることによって錆びにくくします。
この他にも、様々な金属を鉄鋼に混ぜることで多種多様な性質や特性を持つ合金が生み出されています。
ブリキとトタン。どっちが錆びる?
さて、鉄の最後として外せないブリキとトタンに付いて、丸暗記ではなく、イオン化傾向(参考:「イオン化傾向の意味を徹底解説」)を利用してどちらが先に錆びやすいのか、そしてその理由を紹介します。
まず、トタンは鉄の表面を亜鉛Znで覆ったもので、スズSnで覆ったものがブリキと呼ばれます。
トタンとブリキに同じ様に傷が付いたとき、
鉄よりもイオン化傾向が大きい(すなわちイオン化しやすい→酸化しやすい)亜鉛で守られているトタンは、優先的に亜鉛が錆びていくので鉄自体は長持ちします。
一方で、鉄よりもイオン化傾向が小さいスズで覆われたブリキは、トタンとは逆に鉄の方から錆びてしまいます。
その為に、
・トタンは屋根の様な雨水にさらされる場所で使用され、
・ブリキは傷がつきにくいような缶の材料などとして使用されます。
<ブリキ・トタンとイオン化傾向>
鉄の製法/性質のまとめと関連記事
・特に高炉で鉄が還元されて行く順番と酸化数の関係は非常に重要なので、しっかりと流れを覚えておきましょう。
・鉄のイオン、錯イオンについては別途金属イオンをまとめたページで紹介します。
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